2026.03.24

インフラ企業の次の一手は“まちづくり”だった。 西部ガス「さとづくり48」が示す、地域共創のモデル

インフラ企業の次の一手は“まちづくり”だった。 西部ガス「さとづくり48」が示す、地域共創のモデル

福岡県宗像市。福岡市と北九州市のほぼ中間に位置するこの街に、「日の里団地」と呼ばれる九州最大級の団地がある。

この団地が整備されたのは、1960年代から70年代にかけてのことだ。高度経済成長期、日本の都市には多くの人が流れ込み、住宅不足は深刻な社会問題になっていた。各地でニュータウンや団地が次々と建設され、人々は新しい住まいと生活を手に入れていく。日の里団地もまた、そうした時代の流れの中で生まれた団地の一つである。最盛期には1万4千人を超える人々が暮らし、整然と並ぶ住宅棟では、子どもたちの声が響き、公園には人が集い、買い物帰りの人々が言葉を交わす。団地は、当時の日本が描いていた「都市生活の理想」を象徴する場所でもあった。

しかし、半世紀という時間は、街の姿をゆっくりと変えていく。当時入居した住民は、同じように年齢を重ねていった。日本各地のニュータウンが直面している課題と同様に、日の里団地でもまた、高齢化やコミュニティの変化という問題が浮かび上がっていた。この街は、これからどこへ向かうのだろうか。

その問いに対して、一つの答えを探ろうとして始まったのが「さとづくり48(よんじゅうはち)」というプロジェクトである。そして、この取り組みを推進しているのが、西部ガスグループだ。

西部ガスグループは、九州を中心に都市ガス事業を展開するエネルギー企業である。創業は1930年。 約1世紀にわたり、地域の生活や産業を支えるエネルギーインフラを担ってきた企業だ。エネルギー企業である西部ガスが、なぜ団地再生や地域づくりに取り組んでいるのか。その背景と狙いについて、西部ガス株式会社、都市リビング開発部部長の相川さん、都市リビング開発部まちづくりソリューショングループの原さん、成富さんに話を伺った。(写真の左から原さん、相川さん、成富さん)

これまでと、これからをつなぐ場所

プロジェクトの舞台となったのは、解体が予定されていた団地の一棟、48号棟である。高度経済成長期に建設された多くの団地と同じように、日の里団地でも建物の老朽化が進み、更新の時期を迎えていた。

本来であれば、古くなった建物は取り壊され、新しい住宅へと建て替えられていく。それが、団地が更新されていくときの一般的な流れだ。しかし、この場所では少し違う選択がなされた。壊して新しくするのではなく、残して使い続けるという選択である。

老朽化が進んでいた団地10棟のうち、9棟は解体された。一方で、48号棟だけは残され、2021年からコミュニティ施設「ひのさと48(よんじゅうはち)」として生まれ変わった。現在はテナントが入り、地域に開かれた拠点として運営されている。

解体された9棟の跡地には、里山を思わせる緑に囲まれた64戸の戸建て住宅が整備され、かつての風景に新しい息吹を吹き込んでいる。その一方で、周囲には今も半世紀の時を重ねた60棟あまりの団地群が静かに佇む。ひのさと48は、この「これまでの街」と「これからの街」が交差する場所に立ち、両者をゆるやかにつなぐ結び目のような存在になっている。施設内には、クラフトビールの醸造所、コミュニティカフェ、シェアキッチン、DIY工房、保育園など、多様な機能が入っている。かつて団地の住戸だった空間は、今では地域の人が集まり、新しい活動が生まれる場所へと姿を変えた。

原さんは、この場所の役割をこう語る。
「ここは、ただテナントを貸し出すための商業施設ではありません。地域の人が気軽に立ち寄れて、日常の延長のような感覚で使える場所にしたいと思っています。新しく移り住んできた方と、長年この団地で暮らしてきた方が、自然に出会って会話が生まれる。そういう接点をつくることが大切だと考えています」

つまり、この場所の目的は、単なる“消費”ではない。人と人との関係をつくることにある。

原さんや成富さんは、タウンマネージャーとして、この場の運営に日々関わっている。イベントを企画し、地域の声を拾い、相談を受け、つないでいく。そうした役割は目立ちにくいが、実際に現場に立つと、その存在が街の空気を大きく左右していることが分かるという。常駐する人がいる場所では、住民が行事に参加しやすくなり、「誰に聞けばいいか」が見えやすくなる。逆に、建物だけが整っていても、そこに関係を編む人がいなければ、街は生き物のようには動き出さない。 その場所に人がいて、声をかけ、相談に乗り、つなげる。タウンマネージャーの機能こそが、実はまちづくりの核なのだと感じさせられる。

 

ガス会社が「まちづくり」に取り組む理由

西部ガスといえば、まず思い浮かぶのはエネルギー事業だろう。だが現在、西部ガスグループはその枠を大きく広げている。不動産、飲食、海外事業、高齢者施設、スタートアップ投資など、事業は多角化しており、その中でも近年特に存在感を増しているのが、不動産や地域と深く関わる領域である。ではなぜ、エネルギー企業がここまでまちづくりに踏み込むのか。相川さんは、その背景をこう説明する。

「電気やガスの自由化が進んで、エネルギー供給だけでは価格競争に巻き込まれやすくなりました。以前のように、家が建てばそのままガスが入るという時代でもありません。オール電化も増えて、エネルギーは“選ばれるもの”になっています。だからこそ私たちは、不動産やまちづくりから入り、そのエリアにガスを供給していく体制をつくってきました」

西部ガスでは、土地を造成して売るだけで終わらない。その後の団地管理やにぎわいづくりまで関わることで、街そのものに付加価値を生み出していく。「『ガスを入れてください』とお願いするのではなく、『この会社と組むと街全体がよくなる』と思ってもらう。その文脈の中にエネルギー供給があるんです。ひのさと48のようなタウンマネジメントも、その一環です」

ここには、西部ガスならではの経営思想もある。相川さんが挙げたのは、同社が大切にしてきた「地域とともに栄える」という考え方だ。「ガス会社は、地域の中にガス管を張り巡らせて事業を行う以上、その土地から簡単に離れることはできません。地域が元気でなくなれば、自分たちの事業も細っていきます。逆に、地域に人が住み、暮らしが豊かになれば、企業としても成長できる。地域と企業は一蓮托生なんです」この言葉は、いかにもインフラ企業らしい重みを持っている。地域に必要とされる存在であり続けることが、そのまま自社の持続性につながる。だからこそ、まちづくりは本業の外側にある事業ではなく、むしろ本業を支える戦略そのものとして位置づけられているのだ。

人口減少が進み、地域の暮らしの形も変わっていく。その変化の中で、エネルギー会社として地域にどう関わっていくのか。さとづくり48は、その問いに対する一つの実践でもある。

 

視察は「共感」を増やす装置


さとづくり48は、団地再生の新しいあり方を示す事例として、全国から視察や取材の依頼が絶えない。視察の受け入れを担当している原さんは、その現状をこう語る。

「自治体関係者、大学の研究者、議員連盟、さらには全国のガス会社など、本当にさまざまな方が来られます。大学のゼミやフィールドワークの場として使われることもありますし、視察がきっかけになって行政から相談をいただくこともあります。PFIや指定管理の案件につながったり、民間企業との協業のきっかけになったりすることも増えてきました」

視察は、この場所の取り組みを知ってもらう場であると同時に、新しいプロジェクトや連携を生み出す入口にもなっている。

しかし、視察を受け入れる意味はそれだけではない。もう一つ大きいのは、この取り組みに共感してくれる人を増やすことだと、成富さんは話す。

「地域に貢献する取り組みではありますが、事業を続けていくうえでは、もちろんビジネス的な視点も大切です。こうした取り組みは、社内でも“なぜ続けるのか”と問われることが少なくありません。そのためには、社内にも納得してもらえる材料が必要になります」

地域づくりのプロジェクトは、売上のように明快な数字だけで評価できるものではない。社会的な価値や地域への影響はどうしても見えにくく、成果を示すのが難しい側面がある。だからこそ、外部からの評価が大きな意味を持つ。

「『いい取り組みですね』『西部ガスさんらしいですね』といった声が増えると、それが社内で事業を続けていくための説得材料にもなります。例えば、視察が何人来たか、どんな賞を受賞したか。そういったものは外部評価として分かりやすい指標になります。今後も視察を通して、共感してくださる方や応援してくださる方を増やしていきたいと思っています」

外からの共感が積み重なり、それが社内にも波紋のように広がっていく。視察とは、その循環を生み出すきっかけでもあるのだ。さらに、視察が増えることで思いがけない波及効果も生まれると相川さんは言う。

「視察が増えると、マスコミの取材も増えてくるんです。新聞、テレビ、雑誌などに取り上げていただく機会が増える。以前、総務部に頼んで試算してもらったことがあるんですが、テレビや新聞、雑誌などの露出を広告換算すると、数億円規模の効果があるという結果でした」

これはなかなか豪快な数字だが、理屈はわかる。BtoB企業やインフラ企業は、一般消費者にとって日常的に見える存在ではない。だからこそ、こうした社会性のある取り組みがメディアを通じて広がることは、企業のブランディングや採用にも大きく効いてくる。相川さんは続ける。

「社会性のある取り組みや会社のブランディングにつながる活動は、どうしても売上のように数字で示しにくい部分があります。ただ、視察が増えれば採用につながることもありますし、新しい取り組みを考えている自治体や企業から問い合わせをいただくこともあります。さまざまな波及効果があるので、自社の取り組みをきちんと発信していくことが大切だと思っています」

視察は、単なる見学の場ではない。共感を生み、評価を集め、新しい関係を広げていく。さとづくり48にとって、それはこの取り組みを未来へとつなげていく大切な循環の一つになっている。

 

さいごに


西部ガスのこうした取り組みは、日の里団地だけにとどまらない。北九州市の「BONJONO(ボン・ジョーノ)」もまた、同じ発想でタウンマネジメントを実施している。この街は、「環境未来都市北九州市」の主要プロジェクトとして、その地区特性を活かし、暮らしに伴う二酸化炭素排出量の大幅な削減と、多世代が安心して住み続けられる持続可能なまちづくりを目指して整備された、これまでにない新しいまちだ。西部ガスを中心としたタウンマネジメントによって、ただ住むだけでなく、人と人が自然に混じり合い、関わりが生まれる仕組みが街の日常に溶け込んでいる。

さらに福岡市では、日常の中で住民に寄り添う「コミュニティナース」の活動を支援している。拠点となる「まちの保健室 たねばこ」は、心身の悩みから育児・介護の相談まで幅広く受け入れる場所だ。誰もが気軽に立ち寄れる場があることで、対話を通じた緩やかな地域コミュニティが育まれている。

西部ガスは、ガスを安全に供給するだけでなく、近所に顔見知りがいる安心感や、生きがいのある暮らし、心身の健康までも含めて“インフラ”と捉えている。地域が弱れば、自分たちも弱る。地域が元気になれば、自分たちも成長できる。その原点に立ち返り、西部ガスはまちづくりという方法で地域との新しい関わり方を模索しているのだ。

もしこの記事を読んで興味を持ったなら、一度この場所を訪れてみてほしい。インフラ企業の挑戦が、どのように地域の風景を変えつつあるのか。その答えは、きっと現地でこそ見えてくる。

 

【西部ガス株式会社の視察申し込みはこちら】

https://shisaly.com/recipients/493