2025.07.01

【島根県海士町】「ないものはない」から始まった、挑戦と共創の離島モデル。視察から学ぶ、海士町の地方創生戦略

【島根県海士町】「ないものはない」から始まった、挑戦と共創の離島モデル。視察から学ぶ、海士町の地方創生戦略

島根県の北約60キロ、本州から高速船で約2時間の場所に浮かぶ中ノ島。その島には、およそ人口2,200人程度の小さな町”海士町”があります。その町の基幹産業は漁業や岩ガキ、白イカ、隠岐牛などの畜産業や加工業、自然を活かした観光業が中心です。海士町は2000年代に入り、財政危機・人口減少・産業の低迷に直面し、「自分たちで島の未来を築く」という強い意志を町民一丸で掲げました。

地元資源を活かしながら、「ないものはない(ないからこそ、強みがある)」という逆転のブランド戦略を採用。新たな価値を見出し、挑戦型の地域づくりを進めた結果、U・Iターン者が増え、若者の移住が進みました。移住者の割合は現在、町の人口の約18%に達し、特に若者世代が中心となって活躍している点が注目されています。

本記事では、そんな海士町が地方創生モデルとして注目されるようになった数々の取り組みの一部をご紹介します。


⬇︎海士町の視察一覧はこちら

https://shisaly.com/recipients/407
 


 


1.インフラ×デジタル活用による「モノ・人づくり」

海士町は2000年代後半から、離島という地理的制約を逆手に取り、ICTインフラ整備に力を入れました。特に注目されるのが光ファイバー網の全島整備です。遠隔教育、テレワーク、映像配信などが可能となり、教育・経済の両面で大きな変化をもたらしました。隠岐島前高校では都市部の講師とオンラインでつながり高度な授業が実現され、企業や自治体職員も遠隔での業務を展開。

また、特産品をPRするプロモーション動画の発信や、観光資源の可視化も進み、外貨を稼ぐ手段としても活用されています。

 

2.CAS凍結導入による付加価値型水産業創出

海士町が2005年に導入したCAS(Cells Alive System)凍結技術は、地元の漁業に革新をもたらしました。従来、離島という地理的制約から水産物の輸送には時間がかかり、鮮度保持が課題でしたが、CAS技術は細胞を壊さずに凍結できるため、解凍後も獲れたての食感や味を維持することが可能です。

CASの導入によって、白イカや岩ガキなどの高品質な海産物を都市部へ安定供給できるようになり、商品価値が大きく向上しました。導入にあたっては第三セクター「株式会社ふるさと海士」が設立され、地域一体となって加工・販売体制を構築。地元漁業者にとっても高単価での販売が実現し、町全体の産業収益を押し上げました。

この技術を活かしたギフト商品や飲食店向け食材の開発も進み、雇用創出にも貢献しています。CAS導入は、単なる技術導入にとどまらず、地域産業の持続可能な成長モデルの核となっています。


3.島前高校魅力化と「島留学」の推進

町内の島前高校はかつて生徒数減少により統廃合の危機に直面していましたが、海士町は「高校の存続=地域の未来」と位置づけ、2008年に「高校魅力化プロジェクト」を開始しました。

町と学校、県教育委員会が連携し、地域学や探究型学習を導入。さらに、全国から生徒を受け入れる「島留学」制度を創設し、島外からの若者の流入を促しました。学習環境の整備に加え、地域住民が生徒の生活を支える体制ができたことで、地域との結びつきも強化。卒業後も島に関わり続ける「関係人口」の創出にもつながっています。

 

4.半官半Xや複業協同組合で「多様な働き方」を実現

海士町では「一人が一つの仕事に縛られない」柔軟な働き方を推進しています。行政職員が地域の民間活動に関わる「半官半X」や、複数の業種を掛け持つ「複業協同組合」は、島のような小規模社会において持続可能な雇用モデルとして機能しています。

個人のスキルや関心に応じた働き方が可能となり、暮らしに根ざした生き方が実現。特に移住者にとっては、仕事と生活の両面で不安を軽減する制度として高く評価されています。


5.挑戦の文化を育む行政主導の仕組み

海士町では、「挑戦することが当たり前」という文化を育むため、行政が先頭に立って実践的な支援を行っています。町職員は公務にとどまらず、新規事業や地域プロジェクトに主体的に関わり、住民とともに動く姿勢を貫いてきました。

特産品開発や移住促進、教育改革などでは、「やってみよう」という空気を行政がつくり、失敗を恐れず挑戦を後押しする環境を整備。この風土が住民の主体性を引き出し、多様な分野で起業やプロジェクトが次々に生まれる土壌となっています。

 


おわりに

海士町は、地理的・人口的制約を逆手に取り、インフラ整備・ブランド戦略・教育充実・働き方改革・テクノロジー活用を町ぐるみで進めることで、目覚ましい成果を収めています。

その結果、U・Iターン者が町の約18%を占め、産業の多様化と定住促進が実現しました。海士町は、まさに全国の地方創生のモデルとして「挑戦の居場所」を提供し、未来の地域づくりの指針となっています。

視察マッチングプラットフォームshisalyでは、そんな海士町の視察プランも掲載中です。産業振興、教育改革、移住・定住促進といった多岐にわたる取り組みを現地で体感し、地域の挑戦と工夫に直接触れることができる貴重な機会です。地方創生に関心のある自治体職員や事業者の皆さまにとって、学びの多い視察になるのではないでしょうか。

https://shisaly.com/recipients/407