近年、観光の形は大人数から少人数へ、見学から体験型・交流型へと形を変えており、そうした観光ニーズを踏まえて、新しい観光(ニューツーリズム)が多種多様に生まれています。
その地域の自然環境や歴史文化などを観光客に伝えるグリーンツーリズムや、歴史的・文化的価値のある産業文化財や生産現場、産業製品を観光資源とする産業観光など、地域にある物を観光資源としての再定義がされているのです。
そんな中、地域の”インフラ”に着目した”インフラツーリズム”という観光の形に注目が集まっているのをご存じでしょうか?
今回はそんなインフラツーリズムの内容・魅力について解説していきます。
インフラツーリズムとは
インフラツーリズムとは、国や地方自治体が管理している道路や橋、トンネル、ダム、下水道、港湾、空港など公共施設や土木景観を観光資源と位置づけ、それらを通じて地域の歴史や交流などを促進する観光活動の事を指します。
機械室や内部の仕組みなどを見学するバックヤードツアーや、ダムや橋の構造を利用したツアーが可能です。普段見られない施設の内部を見学でき、防災や治水、交通システムなどを学べるという魅力があります。
国土交通省では、2016年からインフラツーリズムを紹介するポータルサイトを開設し、情報発信を行ってきたこともあり、インフラの管理者と旅行会社などが調整して実施する民間ツアーも増加傾向です。

インフラツーリズムの事例
では、具体的にどのような公共施設がインフラツーリズムとして観光資源になっているのでしょうか?国土交通省では2018年から「インフラツーリズムの魅力倍増プロジェクト」を実施。5カ所のモデル地区を選び、地域との連携や国内外への広報などの社会実験を行いました。「インフラツーリズムの魅力倍増プロジェクト」の対象施設は以下の通りです。
①鳴子ダム(宮城県大崎市)
日本人の技術者により造られた日本初のアーチダムで、選奨土木遺産
②八ッ場ダム (群馬県吾妻郡長野原町)
建設中ダムでの多彩な見学ツアー(やんばツアーズ)を開催
③天ヶ瀬ダム(京都府宇治市)
淀川水系支流の高山ダムとの組み合わせなど広域連携モデル
④来島海峡大橋(愛媛県今治市)
瀬戸内しまなみ海道上の世界初の三連吊り橋であり、塔頂体験ツアーを開催
⑤鶴田ダム (鹿児島県薩摩郡さつま町)
九州最大の重力式コンクリートダムで水位低下時には明治期の発電所遺構が出現
国土交通省はこの実証実験を通して、それぞれの対象施設を活用した旅行ツアーを企画。インバウンド旅行関係者を対象にツアーを実施しました。観光資源に関する評価、課題、改善点等を集約し、インフラツーリズムの拡大に向けて取り組んでいます。
また、インフラツーリズムの先駆けとして有名な施設は埼玉県春日部市に位置する首都圏外郭放水路です。首都圏外郭放水路とは地底50mを流れる世界最大級の地下放水路で、巨大な柱が立ち並ぶ壮大な雰囲気がパルテノン神殿を彷彿とさせることから「防災地下神殿」と称されています。現在も放水路として機能しながら、観光名所としても有名です。
見学コースは調圧水槽や作業用通路、ポンプを見れるもの等、計4つのコースがあり、多くの人が観光に訪れています。
おわりに
私たちが普段の生活を送る中で、道路や公共施設などについて意識を向けることはほとんどありません。しかし、こうしたインフラ設備が持つ機能は私たちの生活には無くてはならないものです。
インフラツーリズムは、そんなインフラの魅力の再発見や防災意識の向上にも繋がります。
皆さんが住んでいる地域にも魅力あるインフラツーリズムが実施されているかもしれません。是非一度、インフラツーリズムについて調べてみてはいかがでしょうか。