2023.07.05

空き家問題を逆手に取った観光の取り組み「アルベルゴ・ディフーゾ」とは

空き家問題を逆手に取った観光の取り組み「アルベルゴ・ディフーゾ」とは

近年、地方では人口減少と過疎の影響により増加している空き家の存在が問題となっています。

空き家は放っておくと、近隣地域の治安や、衛生面、景観的にも悪影響があり、空き家問題は日本の抱える大きな問題です。特に地方の観光地ではそれらの問題の内、景観的な部分で大きな問題となっています。

そんな中、新しい地域活性の取り組みである”アルベルゴ・ディフーゾ”という言葉に注目が集まっているのをご存知でしょうか?今回はアルベルゴ・ディフーゾはどのような取り組みで、どのようなことが期待されているのかを説明していきます。

アルベルゴ・ディフーゾの定義

アルベルゴ・ディフーゾは1980年代初頭、北イタリアにある廃村寸前の村を復興するプロジェクトが発端と言われています。

アルベルゴはイタリア語で「宿」、ディフーゾは「分散」を意味し、合わせて「分散型の宿」という意味です。つまり、アルベルゴ・ディフーゾとは、地域の空き家や施設等を宿の機能の一部と捉え、町全体で観光客を受け入れる取り組みです。

宿泊は宿、食事は周辺の飲食店、入浴は銭湯や温泉、お土産の購入は地域の売店等、観光客の回遊を図り、町全体の賑わいを促す事が出来ます。

アルベルゴ・ディフーゾの提唱者であるジャン・カルロ・ダッラーラ氏によると、アルベルゴ・ディフーゾは以下の条件を満たす必要があると言います。

・経営形態
​​客室はひとつの地域あるいは歴史的地区の複数の建物に分散していること

・ホスピタリティのクオリティ
プロフェッショナルで心のこもったサービスであること

・建物と地域の規定
既存の建物を再利用したものであること、またそれが以前から人が暮らしてきた村や町に存在していること

・施設
飲食サービスを伴う食事処、レセプション、共同スペース、喫茶やバーコーナーなどの施設が設けられていること

・建物間の距離
建物間は宿泊客の移動が負担にならない距離にあること、レセプションのある母屋と別棟との距離は200m以内を目安とする

・地域
活気あるコミュニティづくりに寄与すべき存在であること、町にせよ集落にせよ無人であってはならない

・環境
ありのままの環境があること、直面する現実と地域の文化が融合していること

・認識性
はっきりとしたアイデンティティと、提供サービスの質がいつも安定していること

・地域性
地域や地域文化と一体化した経営であること

・連帯感
アルベルゴ・ディフーゾとしての誇りと、アルベルゴ・ディフーゾ同士の連帯意識を持って活動すること

アルベルゴ・ディフーゾのメリット

アルベルゴ・ディフーゾにはどのような効果があるのでしょうか?

まず、地域の文化や魅力をアピールし易いという点が挙げられます。

今までの旅行では、観光地と宿泊場所の行き来のみで観光が成り立っていました。アルベルゴ・ディフーゾのように地域全体を宿泊施設とし、観光客が地域内を回遊することで、観光客が地域の文化や住民と接する機会が増え、魅力のアピールにも繋がります。

次に挙げられるのが、初期投資を比較的抑える事が出来るという点です。地域全体に宿泊機能を分散させれば、大型ホテルのように収容人数の多いレストランや浴場が必要ないので、元から備わっている機能を活用することで施設にかける初期投資を減らすことができます。

日本のアルベルゴ・ディフーゾ活用例

アルベルゴ・ディフーゾの取り組みはヨーロッパ各地に取り組みが広がり、事例は92件に増加。日本にも認定を受けた施設が登場しました。ここからは日本でのアルベルゴ・ディフーゾの活用例を紹介します。

①岡山県矢掛町「矢掛屋Inn&suites」
岡山県矢掛町は、江戸時代は山陽道の宿場町として西国や四国の武士が参勤交代で行き交う交通の要を担っていた町です。しかし、過去には宿場町であったにもかかわらず、現代は古民家だけが残り、そこにインバウンドをどう呼び込むかが課題でした。

 そこで、古民家の特徴を活かした宿泊施設の整備を、賑わいのまちづくりと観光消費による産業の発展と位置付け、古民家を再生した宿泊施設矢掛屋として平成27年にオープンしました。

矢掛町の古民家再生事業は地元の企業、役場が官民連携して街おこしを行い、日本でアルベルゴ・ディフーゾ認定第一号を取得しました。


②東京都台東区谷中「HAGISO」
驚くことに東京にもアルベルゴ・ディフーゾの活用例はあります。

HAGISOは下宿用に使われていた木造アパートを改装した民泊風の宿です。徒歩5分には千駄木まで伸びる「谷中銀座商店街」があり、飲食店や銭湯も点在。周囲は上野の博物館をはじめ、寺や公園も存在する文化的なエリアとなっています。

宿泊等と別に、建物の1階はカフェとギャラリーとなっており、カフェは地元のお客さんで賑わい、コミュニティを形成しているようです。

おわりに

SNSの普及やコロナ禍を通して、現代の観光のあり方は急速に変化しています。そんな中で、アルベルゴ・ディフーゾは空き家問題を逆手に取り、今の時代に合った観光のあり方です。

地域住民からの理解や関係性の構築など、超えるべきハードルはありますが、成功事例になれば今までにない観光地となるでしょう。

それぞれの観光地の取り組みはshisalyにも複数掲載しているので、是非そちらも参考にしてみてはいかがでしょうか。