近年、新聞やテレビなどで「人生100年時代」という単語をよく見かけませんか?
2022年に内閣府が発表した『令和4年高齢社会白書』によると、2020年現在の男性の平均寿命は81. 56年、女性の平均寿命は87. 71年という結果が出ています。
1950年の男性の平均寿命が58.0年、女性の平均寿命が61.5年だったのと比較すると、男女ともに20年以上も平均寿命が伸びているのです。このように、平均寿命が大幅に伸びたことにより日本は今後さらに高齢化社会になります。今後も、男女とも平均寿命は延び、令和47(2065)年には、男性84.95年、女性91.35年となり、女性は90年を超えると見込まれています。つまり人生100年時代が当たり前になるのです。
しかし、平均寿命が伸びていても”健康寿命”も伸びなければ意味がありません。健康寿命とは健康上の問題で日常生活が制限されることなく、生活を送ることができる時間を指す言葉です。この健康寿命も平均寿命と同じく、大幅に伸びていますが、平均寿命以上に重要な指標になってきています。
この健康寿命を伸ばし、「自分らしく」生活を送る高齢者を増やすために、地域でサポートしていく体制づくりが必要です。実は、この自分らしくというキーワードは、近年の介護医療業界において大きなテーマになっています。
介護医療業界では、通院期・入院期・リハビリ期など様々なタイミングで自分らしくいられるサポートを行っていますが、実はその先の終末期にも「自分らしく」いるためのサポートというものも存在します。
今回はそんな終末期のサポートについて、ターミナルケアという単語を軸にご紹介します。
ターミナルケアの定義
ターミナルとは「終末期」を意味し、病気で余命わずかの人、認知症や老衰の人たちに対して行う医療・介護ケアのことを指します。
人生の残り時間を自分らしく過ごし、満足して最期を迎えられるように痛みや不安、ストレスを緩和し、患者の精神的な平穏や残された生活の充実を優先させることが目的です。
「どんな状態をもってターミナル(終末)に入ったというのか」という定義は医師の考え方によっても意見は様々ですが、一般的には病気の治癒が見込めず治療が行えなくなった時、または寝たきりになってしまい食事がとれなくなった時などがターミナルケアを始める目安とされています。
ターミナルケアの内容
①社会的ケア
社会的ケアで扱うものは、終末医療患者の医療費や職場・家庭での責任などといった社会面での問題です。症状が緩和されていても、金銭面などの社会的不安があっては、患者の生活は充実しません。
「家族に迷惑をかけている」「職場に迷惑をかけている」という思いに苦しむことが無いように、医療ソーシャルワーカーなどがコミュニケーションをとりサポートをします。また、ケアマネージャー・社会福祉士を通して、社会福祉制度を利用する際の手続きや情報提供などで社会面でのケアをする場合もあります。
②身体的ケア
身体的ケアで扱うものは、終末医療の痛み、全身の倦怠感、食欲不振、呼吸困難などの身体的な問題です。このような症状が続くと精神面にも悪影響が出るので、投薬を中心に痛みなど症状の緩和を行なっていきます。
ターミナルケアを開始する判断基準の一つである「食事ができなくなったとき」の対応も重要です。栄養補給には鼻から胃に管を通したり胃に直接管を挿入して栄養を補給したりする「経管栄養」や、点滴などの方法があります。
ただ、栄養補給は延命措置にもなり、そもそも栄養補給を実施するかどうか、実施するのであればどんな補給手段にするかといった選択は、本人または家族の意思確認が必要です。
そのほか、毎日の生活においては着替え・排泄・移動といった日常行為でストレスを感じないよう環境を整えることが大切です。寝たきりが長く続くことで「床ずれ」にならないためのケアも行われます。
③精神的ケア
誰でも死を目の前にして、冷静でいられないのは当然です。一旦受け入れた死も、遺される家族のことなどを思うと日々心が揺れて精神的に不安定になります。
こうした不安や恐怖といった感情に寄り添って、できるだけ心穏やかに過ごすためのケアが必要です。具体的にはベッドの周囲にできるだけ普段と変わらない環境を作るなど患者がリラックスできるようにします。
ターミナルケアはどこで行うのか?
一般的にターミナルケアを行う場所は在宅・医療機関・介護施設の3つ。それぞれの場所でターミナルケアを行うメリット・デメリットは下記の通りです。
①在宅
メリット:在宅でのケアは、残された時間を家族と一緒に過ごすことができます。普段の生活と変わらない形でケアができるので、患者自身の精神的・肉体的な負担軽減が可能です。病院と比較すると費用が抑えられ、経済的な負担も軽減できます。
デメリット:患者の日常生活を支えるために、いつも家にいて面倒を見る人が必要です。患者の容態、介護者の事情によっては辞職や転居の必要があり、介護者のその後の人生を大きく変える決断が必要になることもあります。また、在宅ケアは体力的・精神的に厳しいため、介護者が負担を抱えてしまうと家族関係に悪影響が生じる可能性もあります。
②医療機関
メリット:医療機関でのケアは患者の適切な状態管理に加え、医師や看護師が近くにいるため、様態に急変があっても速やかに適切な対応をすることが可能です。日々の介護も任せられるため、家族が介護で疲弊することもありません。医療ソーシャルワーカーのいる病院なら、入院に伴う家族の生活や医療費のことなどの相談もしやすいというメリットがあります。
デメリット:一般的に入院費と治療費がかかるため、経済的な負担は比較的大きくなります。面会時間が限られている場合が多く、家族と離れている間に患者の孤独感や不安感が膨らんでしまう心配もあります。医療施設という環境上、完全にリラックスできるよう整えるのは難しく、やはり在宅ケアに比べて自由度や快適さは低くなってしまう傾向にあります。
③介護施設
メリット:日常生活を介護のプロが見てくれるので安心感があります。着替え・排泄・廊下や階段の移動など、在宅ケアでは苦労しそうなことも、患者はあまりストレスを感じることなく過ごすことができるでしょう。家族は介護のために疲弊することなく、患者と過ごす時間を大切にできます。
デメリット:面会時間が限られている点や、生活環境の違いから、在宅ケアに比べると自由度が低くなります。また、どれくらいの期間ターミナルケアが続くのかはわからないため、経済的な負担の心配があります。
ターミナルケアの今後の課題
ここまでターミナルケアの意味や役割、様々なパターンにおけるメリットデメリットをご紹介いたしました。このように、終末期の高齢者に対しても自分らしさを提供し、家族の負担も軽減するというターミナルケアはこれからさらに注目を集めていきます。
しかし、まだターミナルケアについての知識や制度が十分に理解されていません。人生の最終段階で最も大事な、本人の意思に沿った医療・ケアが提供できるよう、積極的に情報収集を行っていくことが大切です。
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